【ICAOで働く日本人職員のご紹介】 田中鉄也 航空運送局気候変動課長

平成29年7月21日
 現在ICAO事務局では8名の日本人職員が活躍しています。今回は航空運送局にて国際民間航空分野における市場メカニズムを活用したCO2排出削減制度構築の重責を担う気候変動課長の田中鉄也(たなか・てつや)さんに、お仕事の内容やICAOで働くことになったきっかけを伺いました。

田中さんが取り組むICAOの気候変動対策について教えて下さい。

 現在ICAOでは国際民間航空分野において航空機の燃料効率を毎年2%改善させ、2020年以降はCO2の総排出量を増加させないことを目標に、各国へ燃料効率の優れた新型機材の導入や燃料消費を抑えるための運航方式の改善、バイオ燃料をはじめとする持続可能な代替燃料の採用を積極的に働きかけるとともに、現在は排出量抑制を促すための市場メカニズムに基づいた制度を構築する作業に力を注いでいます。航空機の安全や保安といった分野に比べて環境対策、特に気候変動対策というトピックはICAOの中でも非常に新しい分野で、私がICAOに入った2008年は未だ白いキャンバスに絵を描くような仕事でした。  
 約10年の議論を経て、昨年2016年10月のICAO総会にてようやく気候変動対策の全体像が合意されたものの、次は詳細な内装を決めて色を塗って、各国が実施可能となるような支援策を展開して、2019年までに合意されたスキームを実施に運ぶ必要があります。年間約5%の輸送量増加が予想されている国際民間航空の分野で、その成長を阻害することなく、対策の主眼である「CO2排出を減らす」という拮抗する目的をどのように達成するかは大変難しい課題です。また今日の気候変動の原因は先進国の歴史的責任であるという発展途上国のポジションと、CO2排出自体が国境をまたぐ国際民間航空分野において排出権市場を歪曲させることなく各国を公平に取り扱うべきであるという先進国のポジションとをどのように融合させるかという大きな課題もあります。

現在のお仕事のやりがいやご苦労などについて教えて下さい。

 ICAOに加盟する191カ国のポジションは常に大きく割れます。「飛行機の安全対策は重要?」「空港の保安対策は重要?」という質問には191カ国の全員が声をあげて「Yes」と答える反面、「気候変動対策って重要?」という質問には、数の上では大多数を占める発展途上国の中には「気候変動の責任を取るのは先進国で、自分たちは無関係だけど求められるから議論には参加を」という消極的な姿勢もあるのです。他方、先進国が横並びで同じ立場かといえばそうでもなく、逆に発展途上国の中には先進国よりも積極的な姿勢を示す国もあり、ICAO事務局の一員、そして気候変動問題に関する議論の「ファシリテーター」として、常に多様な国の立場に耳を傾けつつ、議論を前に進めていくことが最も苦労する点です。  一方で合意形成が難しいと思われる問題を、さまざまな利害関係を調整しながら議論が円滑に進むよう多様な代替案も準備しつつ、自分が想定したシナリオ通りに物事が進んだ時には大きな醍醐味を感じます。事務局の一員としては何も決められませんが、記録係や会議の設定といった役目だけではなく、最終的に各国の合意形成の議論を促進し、案を提供することはできるわけで、各国のポジションを理解した上でどこまで前に進めるのかを常に冷静に考えながら仕事をしています。

ICAOで働くことになったきっかけと、ICAOでの経験を教えて下さい。

市場メカニズムを活用したCO2排出削減制度構築で合意した2016年のICAO第39回総会のもの。一番左が田中さん。
 国土交通省に在籍していた2007年当時、環境問題に関するICAOの会合に参加する機会があり、折しも当時の「美しい国構想」や「洞爺湖サミット」などの環境ブームとも重なり、国を挙げて気候変動問題に積極的に取り組もうという方針の中で、航空分野における環境問題に対して関心が大きくなったことがそもそものきっかけです。さまざまな業界やシンクタンクの方々とも環境問題について勉強を重ね、ICAOが国際民間航空分野でのCO2排出削減について世界目標を策定した上で、グローバルなCO2削減対策の仕組みの大枠を策定し、且つ各国が策定した削減行動計画をモニタリングする必要があるという日本の主張を練り上げて会合に臨んだ経験から、より環境問題に対してグローバルな視点で取組みたいとの意識が芽生え、2008年からICAO事務局職員となりました。
(写真:市場メカニズムを活用したCO2排出削減制度構築で合意した2016年のICAO第39回総会のもの。一番左が田中さん。<拡大はこちら>

ICAOや国際機関で働くことを目指す人へのアドバイスをお願いします。

 常に目の前のことに全力投球であることと、風を感じたらそのタイミングを逃すなという2点のみです。あまり先を考えても良く分からないですし、全力でやっておけば仮に間違っていても結果に後悔することもあまりなく、また長期的に全く意味のない努力なんて無いと思います。風は純粋な時間のタイミングと人間関係のタイミング、そして周辺環境のタイミングがあると思いますので、先輩や上司の話にもよく耳を傾けながらアンテナを常に高めに張っておくことが重要だと思います。


※ 田中 鉄也(たなか・てつや)
航空運送局気候変動課長 (Chief、 Climate Change Section、 Environment、 Air Transport Bureau)
岐阜県岐阜市出身。東京大学にて航空宇宙工学を学び、工学修士を取得。旧運輸省(現国土交通省)入省後、南カリフォルニア大学での留学経験を経て、2008年にICAOに就職。