【ICAOで働く日本人職員のご紹介】長谷川 通 航空運送局次長(経済開発担当)

平成29年5月16日
 現在ICAO事務局では8名の日本人職員が活躍しています。今回は航空運送局にて経済開発担当の次長を務める長谷川通(はせがわ・とおる)さんに,お仕事の内容やICAOで働くことになったきっかけを伺いました。
 

長谷川さんが所属される航空運送局とはどのようなところですか。

 航空運送局は,ICAOの5つの戦略目標のうち航空保安,経済開発,環境保全の3分野を担当しており,私の部門は経済開発,すなわち航空の経済的規制に関する勧告・研究を任されています。たとえば,航空規制緩和に関するガイダンス作成,空港使用料・航空管制料に関する国際的指針の取りまとめ,各国の航空当局者を集めて協議するICAN(ICAO Air Services Negotiation Event)開催,航空インフラ整備のための資金調達方法考案といった制度構築的な仕事から,航空統計収集,航空輸送に関する経済分析,需要予測などの数量的な仕事に至るまで多岐に渡ります。また,デンマーク及びアイスランド航空当局との共同維持協定(Joint Financing Agreements)に基づき,北大西洋空域を通航する航空機の管制施設等使用料金,協定締結国の分担金の管理も行っています。

長谷川さんが担当されているお仕事について教えて下さい。

 当該部門での私の主な役割は,各課から提案された案件・文書を精査し,航空運送局長の了承を得て事務局長の最終決裁へ導くという管理業務ですが,時には自ら起案したり,新たなデータ分析手法に挑戦したり,国際フォーラムの責任者になるなど,時間の許すかぎり,実務にも直接関わるようにしています。各課の若手職員たちを集めて個別のプロジェクトを立ち上げ,勉強会を行い人材育成支援をすることが,私の一番の励みであり楽しみにもなっています。さらには,航空運送局を代表して,通常予算の策定,ビジネスプランの起草,コーポレート・リスク管理,ビッグデータ・プロジェクトの推進など,ICAO組織全体に関する業務にも携わっています。時期によっては経済開発よりも多くの時間を組織横断的な文書の草稿に費やしています。
 

ICAOで働くことになったきっかけと,ICAOでの経験を教えて下さい。

 ICAOへ入るきっかけとなったのは,航空会社勤務時代に国際航空運送協会(IATA)の会議でモントリオールに2週間滞在した際に,隣の建物のICAO本部を訪問したことです。日本政府代表部から事務局の方の紹介を受け,その約1年後に30代前半で航空運送局のエコノミストとして採用されました。
 最初の9年間はICAO理事会などの会議の作業文書の起草やマニュアルの執筆など地味な作業を黙々とこなしました。2009年夏,思いがけず予算編成を担当したことが契機となり,当時の航空運送局長に認められ,局長室に異動しました。
 局長室で人事計画や予算編成などに携わるようになり,より一層,信頼関係と人間関係を築きました。そして組織を動かすための働きかけ方を理解したことが,その後のキャリアステップにつながりました。「長い物には巻かれよ」という成句をよい方にとらえて,地道な作業に徹しているうちに徐々に流れの先頭の方に進んでいって,気づいたら自分で流れを作ることができるようになっていたというのが実感です。
 
 

ICAOや国際機関で働くことを目指す人へのアドバイスをお願いします。

 ICAOでは高度な専門知識や経験を有していても,文書作りやルーティン・ワークといった地道な作業が基本であり,忍耐力が必要です。まずは些細な仕事でも全力を出し結果を出すこと,そして結果を出し続けていれば,評価は必ず付いてきます。運とタイミングもあると思いますが,「この人に任せられる」という信頼を築くことが,自分のやりたい大きな仕事への近道になると思います。
  「国際貢献をしたい」,「加盟国の役に立つ仕事をしたい」というのは大義ですが,直属の上司や同僚が自分の最も身近な顧客です。上司や同僚とのよい人間関係を保つことが,よりよい加盟国への貢献に繋がると思います。


※ 長谷川 通(はせがわ・とおる)航空運送局経済開発担当次長
栃木県宇都宮市出身。東京大学にて経済学を学び,経済学修士及び博士を取得。航空会社,シンクタンク勤務を経て,2000年にICAOに就職。総務局収益生産管理課長,航空運送局長補佐,経済政策・インフラ担当エコノミストを歴任し,2015年1月に現職に就任。産業組織論,応用経済学(プライシング理論)が専門。